本日のコース(凌雲閣 )の口コミ/評判メニュー情報0食べたい3.1凌雲閣 ディナーレビュー一覧(1)suna84.02023/9/16食事は大広間でとるかたち。同じ時間帯に提供されるようで、泊まっているほぼ全ての人が、時間的に多少前後しながらそこで食事をしていた。思っていたより多くの人が泊まっているようだ。多く目立ったのは夫婦と思しき熟年のカップルで、あとは女性のグループとサラリーマン風なグループ。私のような単行者は他にはいなかった。そんな雰囲気に包まれて若干の寂しさを感じながら、出された食事を楽しんだ。派手な食材はなかったが、様々なデザインの器に入った料理の数々は、私の目と舌を満足させるものだった。お品書きも写真付きで丁寧な説明文とともに提供されていたので、現物と見比べ「へ〜そうなんだ」などと思いながら食べた。珍しい食べ物、あるいは現地での独特な呼ばれ方をしている食材が使われていたりもした。基本的には地産地消という感じ。いつもより更にゆっくりと食事をしたあと、部屋に戻るといつの間にか眠っていた。かなり早く寝たためか翌朝はアラームなしでほぼ日の出とともに起き、玄関にあった雪駄を履き旅館の周りを散策しまた。空気が澄んでおり思わず深呼吸。時間が止まったかの如くの静かな世界をしばらく味わったあと、旅館に戻り朝風呂に入ると、温泉の窓から朝日が見えた。このままずっと浸かっていたいと思った。【主な料理】・先付け盛り合わせ・お造り・ずいきの酢の物・もずくの寒天よせ・長茄子のお浸し・なら茸の玉子豆腐(もぐら)・岩なしのゼリー寄せ・なめこおろし、いくら添え・山菜のっぺ(この地方の郷土料理)#旅館 #一人旅 #和食コース #新潟 #津南 #越後鹿渡ーーーーー“万葉翡翠を求めて”◇◇◇助教授は抽斗から文庫本の万葉集を出しその頁を繰って開いた。“これだ!”学生達は助教授の押えた指先に眼を集めた。「沼名川の底なる玉求めて得し玉かも拾ひて得し玉かも惜しき君が 老ゆらく惜しも」(万葉集 巻13-3247 作者未詳)◇◇◇松本清張「万葉翡翠」より◇◇◇私が一番好きな推理小説は松本清張のこの「万葉翡翠」だ。この短編小説と出会ったのは中学生の時で奈良に住む親戚の叔父さんがハードカバーの本をくれた。松本清張の短編集でこの短編がその中にあったのだ。松本清張は社会派推理小説の始祖と言われ、独特の世界観を背景に今で言うミステリー小説を数多く書いた大御所。私はその小説をきっかけに氏の作品を貪るように読んだ。今思うとかなり暗い作品が多く、でもその世界観にどっぷりと浸ったのだ。この「万葉翡翠」は何度となく繰り返し読んでいる短編推理小説で、何が面白いかと言うと実在する万葉集の解釈に現実味があり、その謎を登場人物の一人である助教授が解くというストーリーが軸となっている点。万葉集を根拠にした考古学という、一般には触れることのない世界を体験できる作品だから。しかも松本清張は架空と現実をうまく組み合わせるという、一種のバーチャルリアリティとも言える世界を小説で実現してしまったのだ。そして、その小説の中にこの辺りの旅館が登場するのである。旅館名などの具体名は出てきてないので、今回は松之山温泉の中で一番レトロっぽいこの旅館を選んだ。何しろ古い小説だしイメージが合うかもと考えた。実は、この小説に出てくる旅館には、その犯人が泊まっていたという設定。翡翠をめぐる殺人劇と、それをわずかな状況証拠から徐々にしかも理路整然と解いていくストーリーは、かなりの臨場感とリアリティを読者に与えてくれる。少なくとも、はるか新潟の山奥まで私を来させるだけの魅力があると思う。今では古典とも言える社会派推理小説だが、機会があったら一度読んでいただきたい。◇◇◇この旅館の最寄駅は、まつだい駅という北越急行の駅で時間帯によっては乗降客がそれなりに多いようだ。駅には売店もあるし駅前には立派なロータリーもある。でも目指す旅館までは遠く送迎車頼り。旅館に電話するとすぐに車で迎えに行くということで、私は駅前で待っていた。15分ほどして普通のワンボックスワゴンがロータリーに着いた。てっきり旅館のロゴが入ったマイクロバスかと思ってたので危うく見過ごすところだった。10分ほどで旅館に着いたが思っていた通りのレトロさで立派な木造建築。まさに時代を感じる風貌だ。入り口には何と他の名前に混じって「歓迎 ○○様」という私の名前が書かれた札が掲出されていた。覚えている限りでは初めての経験。思わず写真を撮ると同時になんかとっても嬉しくなった。温泉場のある別館以外は総木造造りの建物で、タイムスリップしたかのような世界を味わうことが出来る。綺麗に年齢を重ねた老人みたいな雰囲気で一種の気品さえも感じる。客室は階段を上がった2階にあり、全ての部屋に日本語で名前が付けられている。「松」「竹」「梅」から並んでいる部屋の案内板を見ていたら、小学校のクラス名を思い出した。何十年も磨き込まれてきたと思われるピカピカに光る板張りの廊下を歩くと、鶯張りかのように独特の音がした。これも懐かしいような音で、最近では滅多に聞けないもの。昔はこのような音があちこちで聞けました。玄関のドアのガラガラという音、木戸のギーギーいう音、井戸のポンプの腕を上下させた時の金属音と井戸水の流れ落ちる音、柱時計が時を知らせるボーンボーンという音、椅子に座った時に座席の中のバネが軋む音などなど。こう言った楽しい音に囲まれながら暮らしていた。部屋に入ると、やはり昭和な世界が広がっていた。私が想像していた通りのいかにもな造りで、一人で泊まるには贅沢な思える二間続きの和室。この旅館の部屋の最大の特徴は、廊下との間の壁に障子のある小窓がある点です。つまり、廊下とは障子で仕切られているので、その小窓を通して廊下の音が聞こえるばかりか、隣の部屋の音さえも聞こえて来る。最初、隣室の話し声が聞こえてきた時に、部屋と部屋を仕切る壁が薄いのかと思ったのだが、隣室にもある廊下の障子でから漏れた声が、廊下を伝って自室の障子越しに聞こえていたのだ。私は部屋にあった浴衣に着替え、まずは温泉に入った。温泉は渡り廊下を降りて(山間部なので土地に起伏がある)、隣接する新しい建物(とは言ってもレトロな本館に比べてという意味)にある。他に入っている客はおらず一人でゆったりとお湯に浸かった。そう言えば、犯人も温泉に入ったのだろうか?ふとそう思ったが、小説の中にはそれを連想させるシーンはない。まあストーリーには無関係なことだが。◇◇◇いつかまた今度は連れと来たい。店舗情報凌雲閣 新潟県十日町市松之山天水越81 今日不明津南0255962100
食事は大広間でとるかたち。同じ時間帯に提供されるようで、泊まっているほぼ全ての人が、時間的に多少前後しながらそこで食事をしていた。思っていたより多くの人が泊まっているようだ。多く目立ったのは夫婦と思しき熟年のカップルで、あとは女性のグループとサラリーマン風なグループ。私のような単行者は他にはいなかった。
そんな雰囲気に包まれて若干の寂しさを感じながら、出された食事を楽しんだ。派手な食材はなかったが、様々なデザインの器に入った料理の数々は、私の目と舌を満足させるものだった。お品書きも写真付きで丁寧な説明文とともに提供されていたので、現物と見比べ「へ〜そうなんだ」などと思いながら食べた。珍しい食べ物、あるいは現地での独特な呼ばれ方をしている食材が使われていたりもした。基本的には地産地消という感じ。
いつもより更にゆっくりと食事をしたあと、部屋に戻るといつの間にか眠っていた。かなり早く寝たためか翌朝はアラームなしでほぼ日の出とともに起き、玄関にあった雪駄を履き旅館の周りを散策しまた。空気が澄んでおり思わず深呼吸。時間が止まったかの如くの静かな世界をしばらく味わったあと、旅館に戻り朝風呂に入ると、温泉の窓から朝日が見えた。このままずっと浸かっていたいと思った。
【主な料理】
・先付け盛り合わせ
・お造り
・ずいきの酢の物
・もずくの寒天よせ
・長茄子のお浸し
・なら茸の玉子豆腐(もぐら)
・岩なしのゼリー寄せ
・なめこおろし、いくら添え
・山菜のっぺ(この地方の郷土料理)
#旅館 #一人旅
#和食コース
#新潟 #津南 #越後鹿渡
ーーーーー
“万葉翡翠を求めて”
◇◇◇
助教授は抽斗から文庫本の万葉集を出しその頁を繰って開いた。
“これだ!”
学生達は助教授の押えた指先に眼を集めた。
「沼名川の底なる玉
求めて得し玉かも
拾ひて得し玉かも
惜しき君が 老ゆらく惜しも」
(万葉集 巻13-3247 作者未詳)
◇◇◇
松本清張「万葉翡翠」より
◇◇◇
私が一番好きな推理小説は松本清張のこの「万葉翡翠」だ。この短編小説と出会ったのは中学生の時で奈良に住む親戚の叔父さんがハードカバーの本をくれた。松本清張の短編集でこの短編がその中にあったのだ。
松本清張は社会派推理小説の始祖と言われ、独特の世界観を背景に今で言うミステリー小説を数多く書いた大御所。私はその小説をきっかけに氏の作品を貪るように読んだ。今思うとかなり暗い作品が多く、でもその世界観にどっぷりと浸ったのだ。
この「万葉翡翠」は何度となく繰り返し読んでいる短編推理小説で、何が面白いかと言うと実在する万葉集の解釈に現実味があり、その謎を登場人物の一人である助教授が解くというストーリーが軸となっている点。万葉集を根拠にした考古学という、一般には触れることのない世界を体験できる作品だから。しかも松本清張は架空と現実をうまく組み合わせるという、一種のバーチャルリアリティとも言える世界を小説で実現してしまったのだ。
そして、その小説の中にこの辺りの旅館が登場するのである。旅館名などの具体名は出てきてないので、今回は松之山温泉の中で一番レトロっぽいこの旅館を選んだ。何しろ古い小説だしイメージが合うかもと考えた。
実は、この小説に出てくる旅館には、その犯人が泊まっていたという設定。
翡翠をめぐる殺人劇と、それをわずかな状況証拠から徐々にしかも理路整然と解いていくストーリーは、かなりの臨場感とリアリティを読者に与えてくれる。少なくとも、はるか新潟の山奥まで私を来させるだけの魅力があると思う。今では古典とも言える社会派推理小説だが、機会があったら一度読んでいただきたい。
◇◇◇
この旅館の最寄駅は、まつだい駅という北越急行の駅で時間帯によっては乗降客がそれなりに多いようだ。駅には売店もあるし駅前には立派なロータリーもある。でも目指す旅館までは遠く送迎車頼り。旅館に電話するとすぐに車で迎えに行くということで、私は駅前で待っていた。15分ほどして普通のワンボックスワゴンがロータリーに着いた。てっきり旅館のロゴが入ったマイクロバスかと思ってたので危うく見過ごすところだった。
10分ほどで旅館に着いたが思っていた通りのレトロさで立派な木造建築。まさに時代を感じる風貌だ。入り口には何と他の名前に混じって「歓迎 ○○様」という私の名前が書かれた札が掲出されていた。覚えている限りでは初めての経験。思わず写真を撮ると同時になんかとっても嬉しくなった。
温泉場のある別館以外は総木造造りの建物で、タイムスリップしたかのような世界を味わうことが出来る。綺麗に年齢を重ねた老人みたいな雰囲気で一種の気品さえも感じる。客室は階段を上がった2階にあり、全ての部屋に日本語で名前が付けられている。「松」「竹」「梅」から並んでいる部屋の案内板を見ていたら、小学校のクラス名を思い出した。
何十年も磨き込まれてきたと思われるピカピカに光る板張りの廊下を歩くと、鶯張りかのように独特の音がした。これも懐かしいような音で、最近では滅多に聞けないもの。昔はこのような音があちこちで聞けました。玄関のドアのガラガラという音、木戸のギーギーいう音、井戸のポンプの腕を上下させた時の金属音と井戸水の流れ落ちる音、柱時計が時を知らせるボーンボーンという音、椅子に座った時に座席の中のバネが軋む音などなど。こう言った楽しい音に囲まれながら暮らしていた。
部屋に入ると、やはり昭和な世界が広がっていた。私が想像していた通りのいかにもな造りで、一人で泊まるには贅沢な思える二間続きの和室。
この旅館の部屋の最大の特徴は、廊下との間の壁に障子のある小窓がある点です。つまり、廊下とは障子で仕切られているので、その小窓を通して廊下の音が聞こえるばかりか、隣の部屋の音さえも聞こえて来る。最初、隣室の話し声が聞こえてきた時に、部屋と部屋を仕切る壁が薄いのかと思ったのだが、隣室にもある廊下の障子でから漏れた声が、廊下を伝って自室の障子越しに聞こえていたのだ。
私は部屋にあった浴衣に着替え、まずは温泉に入った。温泉は渡り廊下を降りて(山間部なので土地に起伏がある)、隣接する新しい建物(とは言ってもレトロな本館に比べてという意味)にある。他に入っている客はおらず一人でゆったりとお湯に浸かった。
そう言えば、犯人も温泉に入ったのだろうか?
ふとそう思ったが、小説の中にはそれを連想させるシーンはない。まあストーリーには無関係なことだが。
◇◇◇
いつかまた今度は連れと来たい。